同じMサイズなのに、なぜ着心地が違うのか

いつもMを着ている人が、新しい服のMに袖を通す。身幅には余裕があるのに、腕を前に出すと背中が引かれる。別のMは動きやすいけれど、今度は肩が落ちすぎて、狙っていた印象と違う。

服を企画するとき、この違いを「大きい・小さい」だけで片づけると、修正したいところを見失います。身幅を広げれば、気になっていた動きも見た目も、まとめて解決するとは限りません。

Mサイズを作る前に決めたいのは、誰に、どんな着心地を届けたいかです。 サイズ展開は、その意図をSやLにもつないでいく商品設計です。

サイズ名より先に、着ている姿を考える

同じシャツでも、仕事でジャケットの下に着るものと、休日に一枚でゆったり着るものでは、欲しい形が変わります。前者では重ねたときの収まりが気になり、後者では肩の落ち方や裾の広がりをデザインとして楽しめるかもしれません。

どちらも「M」と表示できますが、目指す着用感は同じではありません。サイズ名を決めるだけでは、その服を誰がどう着るかまでは伝わらないのです。

企画の出発点にしたいのは、「普段Mを買う人」という一言より、もう少し具体的な姿です。どんな体型の人を想定し、どんな動作をして、何と重ねて着るのか。その人に、すっきり見せたいのか、身体から離れる余裕を楽しんでほしいのか。そこまで描けると、寸法を決める理由が生まれます。

身幅が同じでも、服の形は同じにならない

サイズ表で着丈と身幅が近い服を選んでも、着た印象がそろうとは限りません。肩の位置、袖の形や付け方、腕まわりの形状、前後の身頃のバランスなど、表の数項目では表しきれない設計があるからです。

たとえば、腕を前へ出したときに背中が引かれるなら、「全体を大きくする」と決める前に、どの部分が動きを妨げているかを見ます。背中のゆとりなのか、袖や腕まわりの形なのか、生地の伸び方も関係しているのか。現物を着て、型紙や素材の条件と合わせて考える必要があります。

反対に、肩が落ちて見えることを、それだけで不具合と決めることもできません。そう見せたいデザインなら、残したい特徴です。修正の基準になるのは、「一般的なMに近いか」だけでなく、今回の商品の意図に合っているかです。

身体の寸法と、服の寸法を分けて見る

身体の寸法は、着る人を知るための情報です。服の仕上がり寸法は、その人にどう着てもらうかを形にした情報です。

その間にあるゆとりを、どこへ、どのように持たせるかでシルエットや動きやすさが変わります。大きな数値が並んでいるから快適、小さな数値だから細く美しく見える、と一律には決められません。素材の厚みや伸縮性、重ね着の条件によっても考え方が変わります。

だからこそ、参考商品のサイズ表は便利な出発点であって、完成した設計図ではありません。参考にしたいのが着丈なのか、肩の収まりなのか、腰まわりの余裕なのかを分けて伝えると、「この服のようにしたい」の中身が具体的になります。

SとLへ、同じ着心地をどうつなぐか

基準サイズの型紙から各サイズへ展開する工程を、グレーディングと呼びます。ここでも、元の服を画像のように同じ倍率で拡大・縮小するだけ、とは考えない方がよいでしょう。

着丈、肩幅、胸まわり、腕まわりなどをどう変えるかは、対象とする体型や商品の形と一緒に決めます。基準サイズで気に入った肩の収まりやシルエットを、別のサイズを着る人にもどう届けるかが課題になります。

基準のMだけを見て全サイズの着用感まで決まったと扱わず、展開する範囲や形の難しさに応じて、どのサイズを現物で確かめるかをパタンナーや生産担当者と相談します。すべてのサイズを同じ人が着て大きさを比べることと、それぞれの対象者が着た姿を見ることにも違いがあります。

試着では、感想と動作を一緒に残す

「窮屈だった」という感想には、修正の手掛かりがあります。ただ、その一言だけでは、直す場所までは決まりません。

たとえば「腕を前へ出すと背中が引かれる」「座ると裾が持ち上がる」「インナーを重ねると腕まわりが詰まる」と、動作や着方を添えて残します。前・横・後ろの見え方も合わせると、着る人の感想を設計の相談へつなげやすくなります。

一人の試着者に合ったことと、想定する着用者全体に合うことも分けて考えます。誰が、何を重ねて、どんな動作をしたときの感想か。その条件が残っていれば、別のサイズで何を確かめたいかも話しやすくなります。寸法や縫製を点検する手順は、量産前サンプルの確認記事もご参照ください。

そのブランドのMに、どんな意味を持たせるか

サイズを決める仕事には、「このブランドのMは、こう着てほしい」という意思が表れます。身体に沿わせるのか、動く余裕をつくるのか、重ね着を含めて形を見せるのか。その意思が、寸法表と試着の判断をつなぎます。

OEMへ相談するときも、サイズ表に加えて、想定する着用者、着る場面、残したいシルエット、参考商品の好きな部分を共有すると、設計の話を始めやすくなります。各サイズを何着ずつ作るかは、その後の色・サイズ別数量の検討へつなげます。

同じMという名前にそろえるだけでなく、そのMを選んだ人に何を届けるかまで決める。その視点が、サイズ展開を商品の価値に変えていきます。

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