「サンプルを見て作ってください」。
この一言で発注をスタートさせることは、今でも珍しくありません。しかし、サンプルだけを渡して作らせた製品は、サンプルと「似ているが違うもの」になる可能性が構造的に高くなっています。
工場は、サンプルから読み取れない情報——縫い代幅・使用糸の番手・ボタンの品番・洗濯後の寸法基準——を自分たちの判断で埋めます。その判断が発注側の意図と一致する保証はありません。
仕様書(スペックシート)とは、「この判断を工場に委ねない」ための文書です。設計の意図を言語化し、数値化し、工場が迷わず再現できる状態にすることが、仕様書の本質的な役割です。
この記事では、アパレルOEMの仕様書に記載すべき項目を体系的に整理し、よくある記載漏れとその影響を解説します。
仕様書が必要な理由
仕様書がなくても製品はできます。しかし、仕様書がない状態での発注には、次のような構造的なリスクがあります。
再現性がない 「同じものをもう一度作ってほしい」というリピート発注のとき、前回の判断を記録していなければ、工場も発注側も「前回と同じ」を正確に再現できません。
トラブルの原因が特定できない 品質問題が起きたとき、仕様書がなければ「指示通りに作ったのに」「指示と違う」という水掛け論になります。仕様書は、責任の所在を明確にするための証拠書類でもあります。
工場によって解釈が変わる 同じサンプルを複数の工場に渡しても、仕様書がなければ解釈はそれぞれ異なります。複数工場への発注や、工場を変える際に品質が変わる原因の多くはここにあります。
仕様書に記載する項目
仕様書に必要な情報は、大きく6つのカテゴリに分けられます。
カテゴリ1:製品基本情報
まず、何の製品についての仕様書かを明確にします。
- 製品名・品番
- シーズン・納期
- 対象工場名
- 発注ロット数・カラー展開・サイズ展開
- 作成日・版数(改訂のたびに版数を上げる)
版数の管理は特に重要です。仕様書を修正した場合、古い版が工場に残っていると「旧仕様で作った」というトラブルの原因になります。常に最新版を明示し、旧版は無効であることを工場に伝える運用が必要です。
カテゴリ2:素材・生地
- 表地:素材組成・品番・メーカー・色番号
- 裏地・芯地:同上
- 生地の重量(g/㎡)
- 洗い縮み率(タテ・ヨコそれぞれ)
- 取り扱い注意事項(高温不可・塩素系漂白剤不可など)
素材の組成と品番は、洗濯絵表示の作成にも使います。組成が正確に記載されていないと、洗濯絵表示の内容が製品の実態と合わなくなる可能性があります。これは景品表示法上の問題にもなりかねないため、正確な記載が必要です。
カテゴリ3:寸法
- 完成寸法一覧(洗濯後の仕上がり寸法):全サイズ分
- 裁断寸法(縮み代を織り込んだ縫製前の寸法)
- 寸法の測定箇所と測定方法の図示
- 許容差(±何cmまでを合格とするか)
寸法は「測り方」まで指定することが重要です。たとえば「着丈」ひとつをとっても、衿の付け根から測るのか、肩の最高点から測るのかで数値が変わります。測定方法を図示せずに数値だけ書いても、工場と発注側で測り方が違えば、数値が合っていても仕上がりが異なります。
許容差の設定も欠かせません。「丈±1.5cm、身幅±1cm」という形で、合否判定の基準を明記することで、検品の基準が工場と発注側で共有されます。
カテゴリ4:縫製仕様
- 縫い目の種類(本縫い・オーバーロック・偏平縫いなど)と適用箇所
- 糸の番手・色
- 縫い代幅(部位ごとに指定)
- ステッチピッチ(1cmあたりの針目数)
- 特殊縫製の指示(すくい縫い・シームテープ・二重縫いなど)
- 閂止めの位置と数
縫製仕様は、製品を分解したときに「どこをどう縫っているか」が分かる形で記載します。部位ごとに縫い方を図示するか、サンプルの現物に該当箇所を示したメモを添付する方法が有効です。
ステッチピッチは見落とされやすい項目ですが、1cmあたりの針目数が変わると縫い目の強度・見た目・伸縮性が変わります。特に目立つ外縫いのステッチは、ピッチを指定することで仕上がりの品質が安定します。
カテゴリ5:副資材
- ボタン:メーカー・品番・サイズ・色番号・付け方(糸足の有無など)
- ファスナー:メーカー・品番・長さ・色・スライダー形状
- 織りネーム:デザイン・サイズ・縫い付け位置・縫い付け方
- 下げ札:デザイン・紐の色・取り付け位置
- 洗濯絵表示:品番または支給の旨を明記
- その他テープ・リブ・芯地:品番・幅・色
副資材は「品番まで書く」が基本です。「黒のボタン」という記載では、工場が手配できる在庫から選ぶことになり、想定と異なるものが使われても仕様書上は問題なしという判断になってしまいます。
承認サンプルとして副資材の現物を工場に送付する場合は、仕様書にその旨を記載し「承認サンプルに準じること」と明記します。
カテゴリ6:検品基準・仕上げ
- 検品合格基準(許容する傷・汚れのサイズと種類)
- アイロン仕上げの指示(プレスの有無・温度)
- たたみ方・梱包仕様
- 下げ札・ポリ袋の仕様
- 輸送時の梱包仕様(1箱あたりの入数・箱のサイズなど)
検品基準は「この程度なら合格、これ以上なら不合格」を具体的に設定します。「きれいに仕上げてください」という指示は基準になりません。たとえば「糸の飛び出しは3mm以内であれば合格。縫い目のほつれは不合格」という形で、工場が判断できる基準を示します。
よくある記載漏れとその影響
仕様書を作っていても、以下の項目が抜けているケースが多くあります。
| 記載漏れ項目 | 起きやすいトラブル |
|---|---|
| 洗い縮み率 | 洗濯後のサイズが仕様と異なる |
| 寸法の測定方法 | 数値が合っていても仕上がりが違う |
| ステッチピッチ | 縫い目の見た目・強度がばらつく |
| 副資材の品番 | イメージと異なる副資材が使われる |
| 版数の管理 | 旧仕様で量産が進む |
| 許容差 | 検品基準が工場と発注側でずれる |
| 閂止めの位置 | 耐久性が仕様に満たない製品ができる |
これらの漏れは「書き忘れ」という個人のミスではなく、仕様書のフォーマットに項目が設定されていないことが原因であることが多くなっています。テンプレートを作り、毎回同じ項目を埋める運用にすることで、記載漏れを構造的に防ぐことができます。
仕様書は「作るもの」ではなく「育てるもの」
初めてOEM発注をする担当者が、最初から完璧な仕様書を作ることはできません。最初は記載が薄くても、トラブルが起きるたびに「この情報が足りなかった」と気づき、次の仕様書に加えていくことで、精度が上がっていきます。
重要なのは、トラブルが起きたときに「誰のミスか」ではなく「仕様書の何が足りなかったか」を問う視点を持つことです。その積み重ねが、再現性の高いものづくりの基盤になります。
私たちと一緒に仕様書を作る場合は、「どの項目をどう記載するか」というプロセス自体が、製品設計の質を上げる作業になります。初めてOEM発注をされる方には、仕様書のたたき台づくりからご一緒することも多くあります。仕様書の作成を「書類仕事」として扱うのではなく、製品品質を設計する行為として位置づけること——それが長期的に良いものづくりにつながると、私たちは考えています。
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